1.遭遇
「確かに、親書は受け取りました」
「もう一つは明日ですか」
食料の村エンゲーブ
村長のローズさん宅で二人はお茶をご馳走になっていた。
「・・・外が騒がしい、ですね」
そう呟いた瞬間、勢いよくドアが開いた。
「ローズさん、大変だ! 食料泥棒を捕まえたんだ」
「違うっていってんだろーがっ!」
首根っこを掴まれた赤毛は力任せに男達を振り払った。
「こら! あんたたち、静かにおしよ。今、軍のお偉いさんが来てるんだ」
ローズ夫人が嗜めてもなかなか口論は収まらない。
ちらりと横目で上司を伺うのと同時に彼の指がカップから離れる。
「そうですよ、みなさん。ローズさんがお困りになっているでしょう?」
カタンとわざとらしく音を立てて上司は椅子から立ち上がった。
低く、静かで、よく通る声。周囲は水を打ったように静かになった。
「なんだよ、あんた」
「私は、マルクト帝国軍第三師団所属ジェイド・カーティス大佐です」
「同じく、第三師団所属です」
す、と左後ろに立ち次いで名乗る。
青の目が怯えるように、緑の瞳が不機嫌そうにこちらに向けられる。
ジェイドが、あなた方は?と尋ねる。最初に口を開いたのは赤い髪の少年だった。
が、それも
「おや、どうかしましたか?」
「失礼しました、カーティス大佐。彼はルーク、私はティアです」
ティア、と名乗る少女が此処までの経緯を話し、泥棒ではないことを訴えた。
タイミングよく導師イオンが話に加わり、彼らの身の潔白は証明された。
泥棒の犯人はチーグルではないかという話だった。
全員がローズ邸から引き上げる。
静けさを取り戻したのも一瞬。
エンゲーブ駐留軍基地内、宿の一室。
「大佐。よろしいですか」
「どうぞ」
失礼致します。ドアノブを回して一歩足を踏み入れる。
同室であるはずの導師イオンの姿は見えなかった。
「ルーク、という少年についてですが」
「何か興味でも?」
「ファブレ公爵家の子息なのではと」
ティアによって遮られた名前は、の耳にしっかりと届いていた。
であれば隣にいた彼も当然聞こえているのだ。
「そうですねえ。本人に確かめるのが一番ですが、恐らく間違いはないでしょう」
「協力を仰ぎますか?」
「いえ、必要ないでしょう。今まで通りで行きましょう」
承知致しました、と敬礼をする。
用件は以上。踵を返すと、腕を掴まれた。
「具合は?」
「特に変わりはありません」
「・・・結構。何かあったらすぐに伝えなさい」
その言葉に頷くと、今度こそ部屋を後にした。
翌日、導師イオンが行方を晦ましアニスが大騒ぎをした。
行き先はチーグルの森だという。予定外の事ではあるが、全員でチーグルの森へと向かった。