2.戦闘

チーグルの森の奥地に着くと、ルークとティアがライガクイーン相手に戦っていた。
彼らに庇われるように導師イオンらしき人影がある。

「アニスはイオン様の安全確保を。はあれを引きつけて下さい。私が始末します」
「承知しました」
その命令に従い、ジェイドと反対の方向に走る。
クイーンを見下せる位置に立ち、ホルスターから二挺の銃を引き抜く。
狙いを定め、躊躇いなく引き金を引いた。

「うぉっ、危ねぇ!」
制止のためにルークの足下に一発。
もう一発は、振り下ろされていた爪に。

敵を此方だと判断したクイーンは、着地したに形振り構わず突進してくる。
その目に照準を合わせ、体内の音素を高める。小さな音素の塊が銃身から立て続けに放たれる。
深紅の血が周囲に飛び散り森の中に悲鳴が響く。
自分に向かって伸びてきた巨大な爪に銃口を向けた。

「荒れ狂流れよ  スプラッシュ」
凄まじい勢いの水流がライガクイーンの背に襲い掛かる。
振り上げられた前足が、彼女に当たることはなかった。
完全に沈黙した事を確認し、は銃を下ろす。

「ご苦労様です、。アニス! ちょっとよろしいですか」
「はい、大佐♥ お呼びですかぁ?」
屈んだジェイドは軽く耳打ちをし、ふんふんと頷いたアニスは外へ駆けて行った。
ジェイドに、ちゃんとイオン様を見張っといて下さいね!と言い残して。

「導師、お怪我は?」
「僕は大丈夫です。ジェイドも、すみません。勝手なことをして・・・」
「あなたらしくありませんね。悪いことと知っていてこのような振る舞いをなさるのは」
「チーグルは始祖ユリアと共にローレライ教団の礎。彼らの不始末は僕が責任を負わなくてはと・・・」
イオンの言葉にジェイドは軽くため息を吐いた。いつもの仕草で眼鏡を押し上げる。

「そのために能力を使いましたね? 医者から止められていたでしょう?」
「・・・すみません」
「しかも民間人を巻き込んだ」
その言葉にイオンは少し項垂れる。助け舟を出したのは意外な人物だった。

「・・・おい。謝ってんだろ、そいつ! いつまでもネチネチ言ってねぇで許してやれよ、おっさん」
「おや。巻き込まれたことを愚痴ると思ったのですが、意外ですね」
「なんだと?」
「大佐。そろそろ時間です」
「親書が届いたのですか?」
ぱぁ、と表情を明るくさせたイオンに向かって、ジェイドは一つ頷いた。
「そういうことです。さぁ、行きましょうか」


「少々面倒なことになりましたねえ」
「そうですね。武器がないのは少々不便ですが・・・ 封印術 (アンチフォンスロット) の具合はいかがですか?」
「流石に能力は落ちますし、解除には時間がかかるでしょう。ですがあなたがいれば問題ありません」

陸上装甲艦タルタロスに戻って行われたやんわりとした詰問に、身分を明かしたルークに協力を仰ぎ、和平交渉に一歩近づいたのだが。
神託の盾 (オラクル) の襲撃に遭い、 艦橋 (ブリッジ) を奪われ、そこにラルゴが登場し。
なんとかそれを退けるも、艦橋奪還は叶わず無様に拘束されたわけで。

「そういえば、大佐。ルークに跪かされたのは屈辱でしたか?」
「珍しい問いかけですね。苛立って下さったのですか?」
「いえ、初めて見る姿でしたのでどのような気分だったのかと」
その答えのせいか、赤い瞳に一瞬影が落ちる。

「・・・さて。此処から出ましょうか。ティアを起こして下さい」
「承知致しました」

眼鏡を押し上げて表情を隠しても、その色を読み取ろうとする者は誰も居なかった。