5.文書
一夜明け、人間との戦闘に躊躇いを見せていたルークは自分も戦うと言い出した。
殺すという事は相手の可能性を奪うことだ。
例え恨みを買ったとしても、逃げ出さず言い訳せず、その責任を見つめることが出来るのか、と。
ティアはまっすぐな瞳でルークを見つめていた。
ルークは震えながら、戸惑いながらも自分の言葉を覆さなかった。
ガイとイオンは心配そうな目で彼を見守り、ジェイドは少し笑っていた。
「いいじゃありませんか。・・・ルークの決心とやら、見せてもらいましょう」
「なんで神託の盾騎士団がここに・・・」
「タルタロスから一番近い街はこのセントビナーだからな。休息に立ち寄ると思ったんだろ」
「おや、ガイはキムラスカ人の割に、マルクトに土地勘があるようですね」
外壁を支える柱にこそこそと隠れて様子を窺う一行は、エンゲーブからの辻馬車が街の中に入っていくのを見て、これ幸いと遠くに見える辻馬車に向かって駆け出した。
城砦都市セントビナー
マルクト軍の
「大佐、4時の方向に六神将。ここに居ては見つかります」
「 隠れますよ」
言うが早いか、ガイがルークの腕を引っ張り、がイオンを抱えて9時の方向にある建物の隙間へと身を隠した。
彼らはセントビナーに駐留していた神託の盾兵からの報告を受け、今後についての話をしていた。
魔弾のリグレット。妖獣のアリエッタ。黒獅子ラルゴ。烈風のシンク。
そして、突如空から甲高い声と共に降ってきた椅子に居た、死神ディスト。
それを視界に収めた瞬間、六神将だけでなくジェイドまでもが嫌な顔をした。
彼らはマルクトとの外交問題を避けるため、エンゲーブとセントビナーに配置した師団の撤退を決めた。
全師団が撤退し終わるまでにかかった時間は約一時間。
各自強張った身体を解し、ようやく基地に向かうことが出来た。
軍基地の入口でジェイドが名前を告げ、グレン・マクガヴァン将軍への取次ぎを依頼する。
来客中だからと通された部屋を素通りし、ジェイドはある一室のドアをノックした。
「お取込み中、失礼します」
「死霊使いジェイド・・・」
「おお! ジェイド坊やか!」
「ご無沙汰しております、マクガヴァン元帥」
出迎えた二人の表情はまるで真逆。
は最低限の礼儀として彼らに一礼をする。
グレン・マクガヴァンは苦虫を噛み潰したような顔をした。
アニスは無事基地に辿り着いた後、手紙を残して姿を消したと言う。
その手紙を読んだジェイドが彼女は第二地点へと向かったと告げ、ルークに手紙を差し出した。
どうやら内容の半分以上はルークに宛てたラブレターだったようだ。
日が傾き始めた事もあり今晩はセントビナーで宿を取ることにした。
夕食までの時間を利用してガイとルーク、ティアはセントビナーの探索へと向かい、残った三人は早々に宿へと向かった。
「は、行かなくてよかったのですか?」
「はい。物資の調達はガイに依頼しています。それより導師。具合は?」
「僕は大丈夫です。ありがとうございます」
常のように柔和な笑みを浮かべた顔は少し青白い。
タルタロスを奪還されて以降、神託の盾騎士団にダアト式譜術を使わされた上、二回の野宿は厳しかったようだ。
「カイツールまでは距離があります。フーブラス川を渡る必要もありますので、今日はゆっくりとお休み下さい」
「ありがとうございます。心配をかけてすみません」
書類を脇に抱え、一礼して部屋を出る。
イオンが一人になるならば安全のため傍にいるのだが、彼と同室のジェイドは部屋にいる。
溜まった書類を片づけるため、は割り当てられた部屋に向かった。