11.口論

「導師イオン、失礼を承知で申し上げます。そのご判断、いささか軽率ではございませんか」
「アリエッタは私に来るように言っていたのです」
「私もイオン様の考えに賛同します。厄は取り除かれると預言を受けた者を見殺しにしたら、預言を無視したことになるわ。それではユリア様の教えに反してしまう」
「冷血女が珍しいこと言って・・・」

へっと鼻で笑うルークをティアは睨みつける事で黙らせた。
さらには整備士のダメ押しの懇願により、一行はコーラル城へと向かう。
ガイは気になる事があるからコーラル城へ行ってみたいと言い、ジェイドはどちらでもいいと言った。

ヴァンが行かなくていいと言ったのだからと最後まで渋っていたルークも、戦えないイオンが行くと決めてしまった以上、行かないわけにはいかないと。
ジェイドとイオンが行くのなら、の答えは決まりきっている。

「不満そうですね、
「そうでしょうか。表情には出ていないとは思いますが」
「ええ。ですが、8年も一緒にいればそれくらいは。・・・それで?」

道中、ジェイドの左後ろで殿を務めていたに向けられた言葉は、どこか愉快そうな音を伴っていた。
問われたままに答え、さらに続きを促されたは、歩みも周囲の警戒も緩めぬままに口を開いた。

「預言に詠まれているから助けに行く、という道理が通るのであれば、預言に大厄が取り除かれると詠まれているから助けに行かなくても構わない、という道理が通らないのは何故でしょう。単なる人助けなら解らなくもありませんが、預言を理由に助ける助けないを決定するのは解せません。預言のために生きるのが人間ですか? 時々、 人形 (パペット) と呼ばれる私よりも余程、と思うことがあります」

淡々と紡がれるその言葉には、預言と預言と共存する人間への嫌悪とも取れるほどの否定があった。
これほどまでに強い言葉を使って意思表示をするのは珍しい。ジェイドはを注意深く観察してみたが普段との違いを見つける事は叶わず。
代わりと言えるかは不明確だが、ティアが眉尻を吊り上げてを睨みつけていた。

、今の言葉はローレライ教団を、ユリア様の教えを否定する言葉だわ」
「そうですか」
「預言は遵守されるべきものよ!? それを否定するなんて・・・」
「では、ティアにお聞きします。預言に戦争や人の死が詠まれていても同じことが・・・預言に記されているのだから預言の通りに死ねと言えるのですか」

その言葉にティア以外も押し黙ってしまう。
いつの間にか一行は道の真ん中で足を止めてしまっていた。

「私は預言そのものを否定しているのではありません。行動原理のすべてを預言に委ねていることや、それによって考えることを放棄している人間を否定しています。私は常に最善の判断を下すのは、預言ではなく自分自身だと考えています。預言通りにしか生きられない、生きてはいけないというのなら、それはもう人の形をした なにか (・・・) です」

言い終えてなお誰も反応を返さないのを見、は彼らを追い越すように歩き始めた。