12.廃城

道中の戦闘すべてを担っていたのおかげか、幾度かの小休憩を挟みつつも一行は予定よりも早くコーラル城へ到着することが出来た。
背後に海を背負う崖際に立つその城は首都バチカルを思わせる造りだった。この世界に戦争がなければ、この場所がマルクトとキムラスカとの国境境になければ、貴族の別荘地として繁栄し続けられた事だろう。

「ここが俺の発見された場所・・・? ボロボロじゃん。なんか出そうだぜ」
「どうだ? 何か思い出さないか? 誘拐されたときのこととか」
「ルーク様は、昔のこと何も覚えていないんですよね?」
「うーん・・・・・・七年前にバチカルの屋敷に帰った辺りからしか記憶がねーんだよな」
「ルーク様おかわいそう。私、記憶を取り戻すお手伝いをしますね!」

コーラル城
雑草に覆われた敷地に敷かれたやや整備された歩道を歩きながら、ルークは辺りを見回していた。気遣うガイやアニスをよそにルークの返事はそっけないものだった。
城の中にも外にも魔物の気配があるのは、妖獣のアリエッタのせいだろうか。左手でホルスターから譜銃を引き抜き死角へ向けて引き金を引く。ウルフの悲鳴と音素の消失はほぼ同時だった。

「中がどうなっているか知っていますか?」
「いや。俺も来たのは初めてなんでね」
「とりあえず奥へ進みましょう。  ルーク、後ろです!」
「へっ?」

正面玄関から場内に入り、少しカビ臭い絨毯を踏みしめながらジェイドは口を開く。
問われたガイは首を振り、当のルークは相変わらず興味なさそうに一人で先を行くも、城内の壁に埋め込まれていた石像が無防備なその背を襲う。
の注意も虚しく孤立したルークは、振り下ろされた重たい腕を剣で受け止めるだけで精一杯だった。

先を行くガイとジェイドの横をすり抜け、両腿から銃を引き抜く。台座部分に狙いをつけて数回引き金を引けば、ルークからにヘイトが移る。振り下ろされた腕を難なく避け、頭部を目がけて同じように両腕を振り下ろすとグリップの底部で与えた衝撃が石像に僅かなヒビを作った。
勢いそのままグリップを起点に宙返りをし、石像の背後にいたルークの前に立つ。再度油断なく構えられたその銃口は火を吹くことなく、代わりに譜術が三方向から襲い掛かった。

止めを刺したガイの刀から炎が消え、周囲に静寂が戻る。
ルークに駆け寄ってきたガイの進路から外れたは、石像が消える前にスペクタクルズを翳した。

「るせーっ! 知るかよ! 大体なんなんだよっ! あれはっ!!」
「侵入者撃退用の譜術人形のようです。これは比較的、新しい型のものですね。見た目はボロボロですが」
「ボロボロなのは全力でぶっ叩いたせいもあるだろうけどな」
「や~ん。ルーク様ぁ! アニス超怖かったですぅ~」
「石像型の魔物、ブレイクゴイルのデータは取れました。二度目はありません。先を急ぎましょう」

ティアとガイに注意されたせいで不貞腐れたルークを真ん中に、一行は再び城内を進む。いくつかの仕掛けを解除し新たにできた道を前に、は中を覗き込んだ。やや深い暗闇の先にぼんやりとした光が差す。

「罠じゃねーの?」と呟くルークに「そうかもしれませんねえ」と返すジェイドはどこか暢気だった。肩越しに振り返ったはその赤い瞳が頷いたのを見、迷うことなく足を踏み入れた。

瞬間、浮遊感を身体が襲い数秒後に硬い地面がブーツの底を叩き、曲げた膝がクッションとなり衝撃を消す。視界の隅からポルターガイストが逃げていくのを見送り、周囲を確認する。
上階にはなかった梯子を見つけすぐ横にあるスイッチを押すと、音素灯の点灯と共にそれが伸びる。
梯子に背を向けて眼下に広がる景色に、は目を細めた。

「一点を除き異常はありません、大佐」
  ご苦労様です、
「あ? なんだぁ!? なんでこんな機械がうちの別荘にあるんだ?」

ジェイドに続き、イオン、アニス、ティア、ルーク、ガイと続く。降りて早々、手すりから身を乗り出して叫んだのはルークだった。
長く続く階段の先、海水が惹かれて潮の香りが漂うその広間に不釣り合いなほど巨大な音機関が鎮座していた。駆け降りるルークを追うガイがとジェイドの横を追い越し、女性陣がその後に続いて行く。
歩みを止めてしまった上司を振り返ると、信じられないという表情を隠さずに立ち尽くしていた。

「・・・大佐」
  なんでもありません。行きましょう」

眼鏡を押し上げ、階下に降りる上司の後を追う。
先に降りていたルークたちは機械の前で何やら騒いでいた。どうやらネズミに驚いたアニスが、あろうことか女性恐怖症のガイの背に飛び乗ってしまったらしい。
酷く震え蹲るガイと、尻もちをついたまま動かないアニス。それを横目に音機関を見上げたジェイドは、その視線をガイに駆け寄るルークに向けていた。

無機物を見るように、静かに。