16.軍港

カイツールの軍港へと戻る馬車の旅は快適だった。主な理由は二つ。歩く必要がないこと、何かにつけて文句をこぼすルークが上機嫌だったこと。
二手に分かれて乗車した馬車の中  ルーク、ガイ、ヴァン組と、その他だ  で暫しの休息を得た一行は降り立った軍港で合流した。死体は既に片づけられていた。

「私はアリエッタの件をアルマンダイン司令に報告して参ります。後ほどイオン様もお越し下さい」
「・・・はい」

強張った表情で頷いたイオンを見、ヴァンは施設の奥へと姿を消した。
それを名残惜しそうに見つめるルークに声を掛けるガイを横目に、は目の前に立ち塞がる男に声を掛ける。

「大佐。あまり目の前に立たれると視界が狭まるのですが」
「おや、そこに居たのですか。馬車を降りてから見当たらないと思えば」
「何故そのようなことを?」
「何のことでしょう?」

質問に質問で返されたは口を閉じた。こうなったジェイドが口を割ることはないとは学習している。
動けど動けど、目の前からマルクトカラーとブラウンが消えなかったことは忘れることにした。

「んじゃ、さっさと帰りてーしヴァン師匠のとこに行こうぜ」
「正確にはアルマンダイン司令官のところな。奥に来客用の部屋があるはずだ」
「ええ、行きましょう」

留守番を命じられたは、船の出航は明日になるということで先に押さえた宿の一室にいた。受けた命令は待機のみだったので、は愛用している譜銃のメンテナンスを行うことにする。
ほんの少し左に寄っていた銃身を直せた頃、ジェイドたちが帰ってきた。

「出発は明日早朝です。各自今日は早めに休んで下さい」

ジェイドの言葉に割り当てられた三部屋へとそれぞれが向かう。
がメンテナンスを終えた銃の試し打ちをしようと外に出ると、すぐ後ろから足音が続く。振り返ると予想通りジェイドがいた。

「どうかなさいましたか、大佐」
「無断外出とはいただけませんね、
「申し訳ありません。軍港の外でメンテナンスを終えた譜銃の試し打ちに」
「ここにはヴァン謡将も滞在しているのですよ。カイツールでの出来事を忘れましたか」
「いいえ。ですがあれ以降、接触は  
「当然でしょう。私がそうさせなかったのですから」

被せるように発言したジェイドには口を噤む。理由はまたしても分からないが、彼は怒っている。それこそカイツールの時と同じように。
その場に突っ立ったままは思案する。機嫌の悪いジェイドに従い宿屋に戻るか、譜銃の試し打ちをするためにジェイドを説得するか。
少し視線を下ろして黙り込んだに、ジェイドは眼鏡を押し上げた。

「あなたに心情を察しろというのは、無理があるんでしたねえ」
「申し訳ありません」
「試し打ちのために外に出るのでしょう。付き合います。いいですね」
「はい」

頷いたを追い越すようにジェイドは街の外へ歩いて行く。後ろから足音が続くのを耳だけで確認をして、小さくため息を吐いた。
彼女が理解しえないこの気持ちを、彼女が持つことのないこの感情をジェイドは胸の内に留めた。